素集庵 - hut on a phase transition

散逸構造、形態形成、創発といった用語に触発された思考のメモ書き。趣味から政治の雑感も。

アニメ・特撮の名曲を語る(その6) リボンの騎士

2021年現在、オープニング・エンディング曲は、長くても1クール(3ヶ月12~13話程度)しか使われない。

頻繁に曲を変えた例としては、「魔法先生ネギま!」(2005)のオープニング「ハッピー☆マテリアル」、曲は同じで、歌手を務める声優が月替わりする。「トリニティセブン」(2014)のエンディングは3話ずつ別の曲に変わる。「らき☆すた」(2007)に至っては、全26話エンディングが全て違うという、極端な例さえある。

 

 曲を変えるスタイル、その原点と言ってよいのが「リボンの騎士」(1967-1968)のオープニング「リボンの騎士」である。日本のTVシリーズアニメの最初が「鉄腕アトム」(1963)だとするならば、日本TVアニメ史の最初期に既に、現在に繋がるアニソンのスタイルが現れている点は強調されなければならない。

 

 オープニング曲には、「インストゥルメンタル」「王子編」「王女編」の3種類がある。

 「インストゥルメンタル」と「王子編」は、歌があるかないかの違いで、現在CD音源で聴くことができるのは「王子編」である。前川陽子の力量発揮、四拍子に囁き台詞と朗々たる歌唱を使い分けるという、また、いかに仮想の王国を、それが中世ヨーロッパに着想を得ているとしても、音楽的に表現するか腐心した、作曲家冨田勲による名作である。

 ところで、「王女編」は8ビートのアレンジである。本編映像でも見ないと聞くことができないと思われるが、第26話以降最終回第52話まで使われる。歌詞も多少違う。ここに、現代につながる女性の活躍、特にアニメ作品における女性の自由度の高さを、1960年代に始まるロック・ムーブメント、流行の最先端を取り込む事で表現した秀逸な思考過程が読み取れる。

 リボンの騎士の原作者である手塚治虫には、現代の価値観では女性蔑視と受け取れる表現があちこちに見受けられる。漫画「ブラック・ジャック」における元恋人「如月恵」の取り扱いがその典型と言えるが、過去を後世の価値観で測るのは、単に醜悪な政治である。ここでは、8ビートに象徴される女性の自由度が、おそらくは原作者の想定、意図を遥かに超えて、アニメ作品における女性表現の系譜の、その起点たるべき位置にあった事に注目したい。

 

 王子編・王女編共に、歌手・楽器構成は同じである。構成が同じでアレンジだけが違うという例は、寡聞にして他に知らない。

 近い例としては、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続」(2014)のエンディング「エブリデイワールド」がアレンジを変えて使われる。オリジナルが声優デュオによるアップテンポの4ビートなのに対し、声優ソロのバラードが2種存在し、本編エンディングでも使われた。つまり、構成は全く同じではない。

 挿入歌であれば、「けいおん!!」 (2010)と「映画けいおん!」(2011)の両方に登場する「U&I」が構成は同じでアドリブ部が多少違うという例はある。この曲は、歌なしのシンセピアノ音だけのスローバラードでBGMとしても使われてもいる。

 しかし、オープニング・エンディングではアレンジだけを変えた例を知らない。もし事例をご存知であればご教示頂きたいところである。

 

 この歴史的原点、不朽の名作をぜひお聴き頂きたい。