素集庵 - hut on a phase transition

散逸構造、形態形成、創発といった用語に触発された思考のメモ書き。趣味から政治の雑感も。

アニメ・特撮の名曲を語る(その10) あなたの心に

 「アベノ橋魔法☆商店街」(2002)のエンディング。オリジナルは、1969年で中山千夏

オリジナル:  中山千夏/あなたの心に(1969年) - YouTube

アニメED: abenoED.mp4 - YouTube

 

 どちらが好きかは、年齢や、どちらをいつ聞いたかによるだろう。出来栄えは新旧甲乙付け難い。

 アレンジは殆ど変わらないというに、それぞれの時代の世相を反映している。オリジナル中山千夏の歌い方は、演歌的こぶし回しのような音程ズレ修正が多用される、グループサウンズフォークソング的な朗々とした歌い上げであるのに対し、カバーの林原めぐみはオリジナルよりも可愛らしい、アニメ的声調で、音程ズレなしにぴったり合わせてくる。いわゆるアニソンである。この音楽的特徴の差異が、雰囲気、世相の差異として現れている。

 

 エンディングには、オリジナル曲と同時代1960年代大阪阿部野橋近辺のモノクロ写真が使われている。

 すなわち、学園紛争華盛り全共闘世代の青春賛歌でもあるオリジナルと、狙って使われたのであろう、同時代1960年代を切り取った写真をバックにしたレトロ感を狙った、しかし同時代性は求めていないか否定しているとさえ言える現代アニメにおいて、カバー版との対比が世相の違いであり、三十年余の時間差が、カバー曲とアニメ本編に深みを与えている。

 余談だが、2002年というのは昭和レトロブームでもあったのだろうか。アニメ・アニソンとは無関係だが、この年、1968年の『亜麻色の髪の乙女』がカバーされヒットした。同年4月放送開始のアニメ「アベノ橋魔法☆商店街」と、『亜麻色の髪の乙女』が使われた花王エッセンシャルダメージケアシャンプーTVCF(同曲、「島谷ひとみ」カバーのCDは同年6月発売)と、どちらが先かはっきりしないが、同時期に意図しないレトロ・コラボが実現していた事は間違いない。

 

 本題に戻る。

 この曲「あなたの心に」と、エンディングでの1960年代の風景写真の使用には、メタな意図が隠されている。壮大なアニパロ(パロディーアニメ)としてある。

 本編を制作した(株)ガイナックスは、「新世紀エヴァンゲリオン」(1992)等の制作でその名を知られるが、その前身DAICON FILM は、1981年の第20回日本SF大会(大阪での開催、通称DAICON III)のオープニング映像制作に始まる。

DAICON III Opening Animation (Remastered audio & video) - YouTube

 

 このDAICON III の映像はアニパロである。不沈艦ともいうべき宇宙戦艦ヤマトを爆発させ、それまで繰り返された主人公の理不尽な復活状態に違和感を抱いていたいた当時のアニメファンを大いに沸かせたとされる。

 「アベノ橋魔法☆商店街」本編もアニパロの連続である。DAICON III に比べ、念の入ったアニパロである。

 「あなたの心に」をアニパロの素材として大阪に回帰させてしまった理由を推測するに、かつて大阪で行われたDAICON III への制作集団としての組織的郷愁であろうし、中山千夏も1959年には「うめだ花月」で吉本興業の演芸に出演していたので、その符丁あっての大阪でもあろう、笑いを引き受けられる唯一の地名が、それがステレオタイプ的であろうとも、大阪だったというのが大きな要因、そう考えるべきである。

 メタなアニパロの歴史的反復、本編とDAICON FILMというアニメ経験を踏まえての、あるいはそれを超えた日本戦後史の秀逸なパロディと言うべきである。