ショパン・コンクールのブルース・リー
第18回ショパン国際ピアノ・コンクールがようやく終わった。7月に始まった予備予選から丸3ヶ月。審査員も大変だった事だろう。
日本のTVは、日本人の入賞ばかり取り上げて、優勝者については触れもしない。"マスゴミ"の面目躍如。
優勝は、ブルース・リー??? Bruce Liu だから リゥ とでも表記すべきか。
1位の演奏は別格の美しさだった。繊細さを問われる表現力は群を抜いていて、曲全体の仕上がりもダントツに良かった。
とはいえ、近年目覚ましいアジア系の優勝・入賞は、これでいいのかと疑問が残る。
ヨーロッパ勢の奮起を期待する、と言えばそれでおしまいなのだが、その出身国関連の圧力は本当になかったのか、闇の中である。
最近ポーランドの憲法裁判所が、国内法がEU法に優先するというを示し、EUと揉め事になっているのも、ヨーロッパ系を優勝させなかった背景としてあるのではないかと疑いたくもなる。
かつてはポーランド自国民優遇とも揶揄された歴史を思えば、事情なり感情はより複雑になっている、と穿った見方もしてみようというもの。
その一方で、日本人がショパンコンクールで優勝しないのは、審査員の良心だとも思える。
乱暴な議論をすれば、日本人に、欧州の暗い情念や耽美なんて、分かるわけけがない。
過去のアジア人の優勝、1980年のダン・タイ・ソン(ベトナム)、2000年のリ・ユンディ(中国)、前回2015年のチョ・ソンジン(韓国)を並べてみると、いずれも祖国存亡の危機に晒された歴史を持つ国の出身。
今回のブルース・リゥはカナダ国籍となっているが、中国系の名と顔立ち。BRUCE (XIAOYU) LIU と表記されている。
ポーランドがロシアに翻弄される、その渦中にあったショパンの意図を汲んでいた、というのは言い過ぎだが、現代日本人の感覚とは完全に別次元にあるであろうことは想像に難くない。
日本人の演奏は、お上手ですね、よく練習しましたね、という印象しか残らない事が多い。音が綺麗だと思ったことは殆どなく、何を表現したいのか伝わって来ない。
ピアノの話。
1位のブルース・リゥ他何人もが使っていた、FAZIOLI という、この世界では新興メーカーのピアノはとても良い。
録音でしか聞いた事がないので確たることは言えないが、それでも Steinway と同格かそれ以上の透明感ある硬質な音を出している。
Steinway も、コンクールに出て来るのはおそらくHamburg工場製なのだと思うが、FAZIOLIの音は、より細くて硬い New York製に近いような気がする。Jazz系ピアニストはここでは触れないとしても、ホロヴィッツが晩年、行く先々に New York製の愛機を持ち込んでいたが、あのスタイルにして音色にこだわるのは良く分かる。それが許されるほどの特色ある演奏家だったということでもあるが。
その意味で、2010年のコンクールで優勝した、ユリアンナ・アヴデーエワが、コンクールで YAMAHA のピアノを使っていたのは理解し難い。
今回も YAMAHA / Shigeru KAWAI という日本メーカーも参戦していて、結構な人数が使っていたが、可もなく不可もない、日本人には耳触りが良いのかもしれないが、よく言えば洗練された丸い音だが、豊かな表現力と身震いする程の演奏を聞いたことがない。音が汚いと思うことはよくある。正直、この音で勝負したい演奏家の気は知れない。
以上、コンクールの感想。
今夜は『死亡遊戯』のブルーレイでも見ることにする。