素集庵 - hut on a phase transition

散逸構造、形態形成、創発といった用語に触発された思考のメモ書き。趣味から政治の雑感も。

アニメ・特撮の名曲を語る(その5) 銀河鉄道999(ゴダイゴ)

映画版 銀河鉄道999(1979)

 

1979年(昭和54年) 8月23日、アニソンの世界は、確かに相転移した。

 

久米宏黒柳徹子が司会を務めたヒットチャートTV番組「ザ・ベストテン」で初めて1位になった日である。

7週に渡って1位を維持した、ゴダイゴによる映画のエンディング曲は、それまでのアニソンの市場が、いわゆる子供向けのカテゴリーから、狭義の歌謡曲、メジャー市場でも通用する流行歌になりうる事を、世間が認知した最初の瞬間だと言える。

現代に続くアニソンの新たな歴史が開いた日である。

 

それまでのアニソンが、本編のイメージに沿うよう作られた、ある一面で本編の付属品であったのに対し、劇場版銀河鉄道999は、本編とは一線を画す事で、流行歌として成立した。

歌詞自体には、本編の設定(原作者松本零士の世界を減じた映画版表現としての)が色濃く反映している(作詞はゴダイゴではない、奈良橋陽子山川啓介)ものの、タケカワユキヒデの、ゴダイゴとしての歌い方と相俟って、旋律の紡ぐイメージは映画作品ないし原作とは大きな乖離がある。

TVシリーズのオープニングあるいはエンディングと比較すれば、違いは更によく分かる。原作にある四畳半的な色彩は、映画版の歌には全くないのである。

 

アニソンが、作品と距離を置いて良い事となったため、楽曲制作の自由度は高まった反面、流行歌として成立しなければならないという新たな制約を課せられたと考える事もできる。

現代のアニソンが、軒並みCD・配信等によって売りに出され、容赦ない市場の選別を受けるようになったのは、ゴダイゴによって、この映画版の「銀河鉄道999」によって始まったと言っても過言ではないだろう。

 

作曲・ボーカルのタケカワユキヒデは、後に次の様に語っている。

「音楽は、環境音の変化に伴ってその形を変えている。畑や田を耕すことがメインだった時代には、木の音をメインにした笛や太鼓、都市が発達すると金属音、特に金管楽器のような音が大きくてせわしい音楽、現代のような騒音の時代には、その騒音を追体験するかのような激しいロックからラップへと、人々が求める音楽は常に環境音と共に変化してきている」

その上で、こうも言う。

「音楽が発展していくその中だけの制約、美意識が次の発展を決めていく」

放送大学ラジオ特別講義「音楽表現と情報環境」(2014年開講)より。講義の放送は終了している。)

 

環境音とは、変化する社会的な動的環境であり、音楽制作が原則として差異化を指向する作業であると考えれば、プリゴジン以来の散逸構造を示しているさえと言える。

でき上った音楽が、芸術品なのか、ゴミとしての吐き出されるエントロピーであるのか、区別するのは至難である点は別問題だが、いずれも次の楽曲を支える環境音あるいは環境騒音となっていくことに疑いの余地はない。この経路依存性を1979年当時、どこまで認識していたのかは知らないが、実践してしまったことは歴史的事実であり、本人の理解した環境に対する美意識の発露であり、流行歌手としての歴史あってこそ可能であった、アニソン世界の一大革命である。

本人の弁がとても重く、大変興味深い。